■写真館雑感~プロ機材販社のひとり言

<写真館にとっての「情報公開」とは?>

 

日々写真館廻りをして痛感することのひとつに、世の商売の顧客向けトレンドは時代によって大きく移り変わっているのに、営業写真館のそれは「旧態依然のまま」だということがあります。建物が古いとか、宣伝がチラシのみでホームページもないだとか、ポージングが古風で写真もフレッシュさに欠けるなど、旧態といってもすぐに分かる「古さ」にとどまっている写真館はたしかに一定数存在します。ただ、ここで誤解なきように申し添えると、わたしはそうした「古さ」を本稿では特に否定しません。「古い」=悪ではないと思います。というのもビジネス上でよくない要素は「古いこと」自体には、あまり含まれていないのではないかと考えているのです。

 

一方この業界において時代の「先端」を行くと思われている大手チェーンのこども写真館。かわいくきれいで豊富な衣装、抜群の立地条件と大量宣伝で構築されたイメージ戦略。幅広い商品メニューと建物のおニュー(死語!)感などなど、時代の覇者のごとく多くの集客力を誇っておりますが、実は商売スタイル自体にも、撮影された写真にも新味が少なく、わたしとしてはこうした新興勢力も、時代のトレンドやニーズの一部しか汲み取っていないと考えております。負け惜しみじゃありませんが、「新しければすべてOK」という簡単な話でもないだろうと思います。

 

ちなみに営業写真館業界ではこうした新興大手を巨大なライバルと捉え、なんとか勝つか、共存するか、無視するか模倣するかという、戦略ともつかぬ対処療法に陥りがちですが、他方を凌駕したからといって時代のニーズに沿うことにはならず、ましてやその結果として商業的成功を収めることとも別物です。ということで、わたしに言わせれば「困った困った」と嘆いてばかりいる老舗写真館も、金太郎飴のごとく同じ手法を繰り返す大手チェーンも、「どっちもどっち」であります(偉そうに済みませんが)。

 

ではどうすればフォトビジネスで安定的な成功を収めることができるのでしょうか?成功の方程式を書いてある(と宣伝している)一般のビジネス本や、自己啓発書などにそのヒントがあったりするのでしょうか?本屋でその手の書籍を片っ端から読んでみたこともありましたが、そうした本には「成功の秘訣は時代の先取りにあり」などという一般常識が書いてあるだけでした。その常識は確かにその通りなのですが、言うまでもなく先を見越す能力など備えている人などめったにいるものではありません。そんなことが簡単に出来るのであれば世の中は成功者で満ち溢れていることでしょう。本当に求められているのは「先を見越すためにはどうすればよいのか?」というノウハウであります。写真業のことが分かっている人が書いた本でもないので、やはりビジネス本での知識は参考にとどめておくのが無難だと思った次第です。

 

しかし、「先を読む」ことはできなくとも、それに近いことができる場合があると思います。これはどの本にも載っていませんでしたが、ワタシが思うにそれは、自分の商売の本質をCriticize批評してみるということです。批評などというとおカタイ感じがしますが、言い換えれば自分の収入が、「お客様にとって何についての対価なのか?」を対象化してじっくり考えてみるということです。それを本稿では「本質」と、これまた偉そうに規定して書いていきます。

 

何にでもその思想の中核をなす「本質」というものがあります。商売の世界も例外ではありません。ビジネスが成功することとは、ビジネスを「継続することに成功している状態」と近似です。そうした成功を保ち続けることはとても難儀ですが、その秘訣は、自分の商売の「本質」を的確につかんだ上で、そのよい部分をうまく生かし、同時に時代の変化にあわせて新しいものも取り入れていき、本質をmodifyモディファイ(修正)していくことではないか。これがわたしがかねがね思っていることであります。そしてそれは「先を見通す能力」に匹敵する大事な考察過程だと考えています。

 

誰も未来が見える人はいません。先を見ようとする高い志はむろん大切ですが、わたしたちが実際にできるのは現在と近未来を修正しつづけることだけであります。その修正の連続が、結果として後から見れば「先を見ていた」ことにつながるのではないでしょうか。そしてその修正作業は、ビジネスの「本質」さえ見誤ることがなければ、そして自分の商売や品質に自信があれば、その「本質」を拡張するように修正しつづけられるのでは?思っているのです。

本質をCriticize(批評)し、modify(修正)し続ける。この繰り返しが商売繁盛のためのキーワードなのではないでしょうか?

 

抽象的な話が続きましたのでその具体例として、たとえば街の本屋(以前勤めていた経験あり)を挙げてみましょう。

 

従来からある本屋はハッキリ言ってきわめて受身の商売形態です。書店のあり方に対して特に「考察」も、「批評」も、「修正」もしないお店は、ただ取次から配本された本を店頭に陳列するだけに陥りがちです。それでは書店という業態の本質を掴んでいることにはなりません。ただ仕入れたものを人に開陳しているだけで、本や読書のプロショップというコンセプトはゼロです。書店の「本質」には気づかぬまま、今の時代、売り上げ減少にただただ困っている店がほとんどという現状です。売上の牽引車となるベストセラーの登場を待ちわびたり、今月は目玉の発刊がなかったから業績が不振だったなどと、外部要因に右往左往させられ、気づけば10年などあっという間に過ぎ去っていきます。この従来型書店経営では多くの場合、人通りの多い一等地に店を構えられる資本しか生き残れません。しかしその一等店ですら、将来に渡って安泰であるという保証はもちろんありません。現代日本では業種を問わず、長年運営している営利組織にとって、売り上げ減少という憂き目はほとんど避けて通れないと考えてよいでしょう。そうなったとき、商売の本質の考察も、批評も、修正も、何もしてこなかった店や、コンセプトを鍛える訓練のなかった店は、売上不振の打開策も限られたアイディアしか出ないのではないでしょうか。その意味では応用も利きそうにありません。

 

しかし、お客様が何に対してお金を払っているのか?という観点から書籍販売を考え、書店の本質とは、

 

「書籍というカタチをした新しい知識を対価対面販売する仕事」

 

または、「読書経験の契機を生み出す場所」

 

だと捉え直せばどうでしょう?本の仕入れ方も陳列も(とりあえずはできる範囲から)、何もかも変わってくるはずです。この良い例として、東京都千駄木に往来堂書店という露面店があります。

ここは個人経営の小規模店らしいのですが、店構えはまるっきり古くからある書店にしか見えませんし、面積も20坪ほどしかないそうです。しかし中身は他の本屋さんとは違います。書籍の陳列に工夫が凝らしてあり、従来のジャンルや著者、出版社ひとまとめの縦割り的硬直的陳列ではなく、本の内容を重視し、トピックが関連するように並べているらしいのです。当然それに伴う店内レイアウトの再考も行ったことでしょう。

坪効率と棚卸しのやりやすさのみを追求したような従来型の圧縮陳列や、文庫本などでよくある出版社別陳列(客にとっては探しづらくて仕方がない)から決別することで、この店ではついで買いが非常に多くなったと聞きます。平均客単価が非常に高く、さらにお店のファンとしての固定客が付いていると聞きます。ここで注目なのは固定客の存在。普通の書店にとって固定客を獲得することがいかに大変かをわたしは知っているだけに、お店の魅力度アップがどれほど大きな武器になりうるかを痛感する事例です。たいていの書店の場合、お客の来店動機は利便性、つまり近所の人が近くて便利だからと来店するだけの話なのですから。

この店は新規店ではありません。路線変更する以前は普通の本屋だったのではないかと推測します。それが経営者の英断で店をリニューアルしたり、イベント等(街の本屋がイベント開催とは!)を積極的に推進した結果、このように地域の文化発信基地ともいえるお店に成長を遂げ、実益も上がるようになったそうです。

 

その他、一般的な本屋について思うのは、お客様同士のレコメンドの場の提供など、購入後のアフターケア的な要素も取り入れられたら面白いのではないかと。店から見れば本は商品であり在庫ですので、いままでの店舗は店側の都合がすべて優先されていたわけですが、同時に、本はお客様にとっては人生の伴侶になりうる、かけがえのないメディアでもありますから、売りっぱなしの状態のまま、いままでアフターケアの思想や戦略がなかったのが不思議なくらいです(ポイントカード制度導入が関の山だったり)。

 

このように考えていくと販促アイディアは広がりを持ち始めます。今日よりも明日、明日よりもあさってというふうに、日々「修正」できていく素地が形成されるのではと思います。ここから先は実務の世界です。

 

しかしこれが仕入れ→入荷→陳列の対処療法的作業だけで日々が終わってしまうだけだと長期的には、いや、短期的にも、大いなる損失なのではないでしょうか。成長の余地がないという点において。

 

そんなことは分かっているけど人手不足で時間が無いんだ、という方もいらっしゃると思いますが、入浴時でも通勤時でも、考察タイムは一日の中で結構取れるはず。この本質を掴むことを省略することこそ、ホントの意味で職務怠慢である気さえします(またまた偉そうに済みません)。

 

たとえばAmazonの販売戦略は「書籍を販売するとはどういうことか」という本質をまことに掴んでいるのではないかと思います。「この商品を買った人はこんなモノも購入しています」のレコメンド機能、書評レビューの充実、レビュワーによる採点、在庫表示機能など、どれも既存の書店がうまく取り入れられなかった、少量超多品種でありながら影響力の高いコンテンツビジネスを補う要素ばかりです。注意しなければならないのは、ここで問われているのは「既存書店ではなぜうまく取り入れられなかったのか」より前に、「取り入れるべき要素」にそもそも気づいていたのかという、問題提起・自己批判能力そのものだということです。この能力を持ち、機能実装を実現できたからこそ、Amazonは王者になったのだと思います。その成功がもたらされた理由は決してネットの流れに上手く乗ったから、という受動的他律的なものではなく、きわめて主体的能動的な判断の結果だったはずです。また同時に、この問題提起・自己批判能力を保ち続けなければ、Amazonといえどもいつかは没落してしまうのではないでしょうか(そうなった場合でもしばらくは貯金で喰えてしまえそうなところがうらやましいですが)。

 

このように書店の本質を理解しつつ売り場のRestruction再構築(日本語の「リストラ」ではなく、言葉本来の意味での「再構築」)を実践すればするほど、その作業は従来の「本屋の常識・枠組み」から外れていく試みになっていくはずです。その過程は個々の本や読書というものに対するそのお店の、大げさに言えば定義・決意・提案が求められるものになるのではないでしょうか。

 

実際にこうした書籍の本質的な部分をしっかりと踏まえ販売面を構築した書店が、先の例のようにまとめ買いを多く誘発し、成功を収めていると聞きます。

 

また、他にも書籍販売のプロ、「ブックコンシェルジュ」が常駐しているという東京・代官山TSUTAYAなどは、本屋の枠を超えて読書体験を提供したいという運営者のコンセプトがにじみ出ています。

また、一方で書籍を、サブカルチャーを補完するようなアイテムと定義し、ごちゃごちゃ陳列による万引きのリスクを引き受けつつも若者に支持されている「遊べる本屋」ヴィレッジヴァンガードもそうした事例の好例でしょう。通称「ビレバン」は、純粋で伝統的な本屋ではなく、雑貨店のようであり、宝探しのような店内で、本に限らず、あたらしいものへの出会いを演出し、国内でかなり店舗数が増加している、「チェーン店らしからぬチェーン店」です。こうしてみると、本屋業界のニューウェーブもかなり個性的ですね。

 

また、余談ですが別の大きな側面から見て、書店という業種が属する小売業を考えると、だいたいにおいて店の主人公は経営者ではなく、お客であるべきなのです。その意味では本屋のフロアーを「売り場」と表現するのはあまりに店舗運営者の都合のみに偏っており、本来は「買い場」という表現が妥当だと思います。ということで上記の例で挙げた書店はどこも「買い場」のコンセプトでフロアーが作られています。

 

本屋の話がだいぶ長くなりましたが、それでは写真館の場合はどうでしょうか?フォトビジネスの本質をうまくつかんだ上で、既存の写真館が新しいものを顧客に提示する方法はあるのでしょうか?また、あるのであればそれはどんなことでしょうか?しかも、競合店対策の要素も兼ね備えた方法。それを次節で述べます。