<写真館における情報公開をもっと広げよう>

 

現代はなかなかアクティブな時代でございまして、上は国政の場から、身近な医療の現場、下はスーパーの牛肉1片に至るまで、一般消費者が為政者や生産者などの大元から情報を求めるのが当然の時代になっています。消費者の立場からすれば、いまや様々な分野に対し判断の根拠となる内容公開をすることは正当な行為です。

 

一方、この情報公開、メーカーや販売者からすれば手間と経費がかかり、敬遠されがちです。説明責任なる言葉もある昨今ですが、ひどいところになるとこの手間と経費を「余計なもの」と捉え、あからさまに嫌悪する会社もあります。プロの撮影業界に居るわたしたちも、生活の別の面からすれば消費者ですから、よそでお金を使うときの心理を考えれば納得がいくと思います。少しでも不信感があれば買わない、見向きもしないのが今風の消費流儀だろうと思います。

 

これは写真業界とて同じこと。特に営業写真業界は昔からお客様に事細かく事前説明をしない、もしくは少ない業界です(と、わたしは思っているのであります)。この点を改善しないと、今の時代の商売流儀にマッチしないと思っています。

 

ここでお断りしておきますが、わたしの申し上げる「細かい事前説明」とは、お客様に対し撮影料金やスケジュール、台紙の体裁や衣装・髪型の打ち合わせをするといったことではありません。そんな説明をするのは当然です。

 

では、どんな事前説明が不足しているのでしょうか。

 

そのことを考える前に、もったいぶっているわけではありませんが、営業写真とは似て非なる撮影業態、商業撮影(コマーシャル)の状況を考えてみましょう。

 

ご承知のようにコマーシャル写真ではクライアントに対し、撮影機材、媒体、色空間まで細かく申請するのがあたりまえです。時には版元の方からカメラ、レンズ、ファイル形式、データ容量、カラープロファイルに至るまで、細かく指定されることも往々にしてあります。これはもちろん、依頼者の都合と印刷業界の入稿条件などに由来する細かさで、いわばプロ対プロの業界標準なやりとりです。わたしの考えは、この精度まではいかずとも、営業写真館もこのスタンスを、一般消費者である撮影顧客にも適用すべきだというものです。

 

これから被写体(=お客様)の一番いい瞬間を撮影するにあたって照明はこういう設定にして、こういうポージングと構図で撮りたいという説明を事前、あるいは撮影途中に行う。それぐらいはやっているところもあるでしょうが、それだけでなく、これからはもっと踏み込んで説明するのが良いのではないかと思います。具体的には、使用する機材(デジタルカメラ機種、レンズ)は何なのか、それはどれほどの高級機なのか、また、撮影後のフローもRAW現像するのか J-PEGのままで行くのか、使ってる画像加工ソフトの種別まで踏み込んではっきり宣言し、ある程度テクニカルな面も説明してから撮影に望むのが筋、もし くは礼儀だろうと感じます。ちょうど医療における、いわゆる「インフォームド・コンセント」のように。

 

そして、人物撮影の多い営業写真館の場合、商業写真の場合と大きく違って必須だと思うのが、プリント方式のお客様への公開説明です。

 

あまり言及されることはありませんが、大事なポイントですので申しあげると、写真館で撮影されるお客様は何にお金を投じてくださるかというと、プリントされた写真そのものに対価を支払っている訳です。撮影のプロセスも髪結いも衣装あわせもすべてこの写真納品のための手段に過ぎません。お客様の遣っていただくお金が、究極的には何に対するものなのかを見極めるのは、前項で申し述べたとおり、その商売の「本質」をつかむ大事なポイントです。

 

プロラボで印画紙焼きなのか、自家処理でインクジェットなのか、あるいはこのサイトで推奨している昇華型プリンターでの出力なのか、また、より大事なポイントである「機材の使用方法」に関しても、メーカー製プリンターをデフォルトのまま使っているだけなのか、自店なりのカラーマネジメントを研究し、オリジナルのICCプリントプロファイルを調合して出力しているのかというプリント情報をこちらから呈示するのです。もちろん写真とは何かという自店のコンセプト込みでお話しすると説得力が増すと思います。

この一連の説明が、写真屋における情報公開となりえるのではないでしょうか。写真撮影をする立場からは「こんな細かい話したって素人のお客さんにはわかりっこない」とか「正直、内幕は見えないままにしておきたいな」とお考えになるかもしれませんが、それではいけません。昨今のお客様は隠蔽、ごまかしに敏感です。素人相手だからこそ説明と公開が必要なのです。

 

もちろんビジネスですからきれいごとばかりではありません。客商売はなおさらそう。一筋縄ではいかないタフなお客やクレーマーは必ず存在します。誠実さ100%でお店を運営していきたいのはやまやまですが、正直なだけでも駄目です。こんなときは言葉は悪いのですが、商売の本質には多かれ少なかれ購買者に対する「カラクリ」が含まれていると割り切るしかありません。

小売なのに原価を公表している販売が存在しないのがその証左です。「原価ギリギリ」を謳う販売店もありますが、当然どこかに儲けの源泉があるはずです。この「カラクリ」と、今まで書いてきた「誠実な説明責任」のさじ加減こそが商売の極意といえるのかもしれません。これも「本質」の一種ではないでしょうか。

 

また、このように技術的なところまで踏み込んで情報公開ができる写真館は繁盛する可能性が高いとわたしは見ています。常に写真や写真の見方、デジタル撮影スキルやカラーマネジメント、そして一番大事なプリント方式について、各時代で研鑽や学習を日常的に継続して重ねているお店なわけですから、繁盛するのも道理です。勉強してないとお客様相手にお話できませんしね。言うまでもありませんが、人に教えるというのは高等技術。自身の中でしっかり咀嚼された知識体系や経験則がないとできない芸当ですし、伝える・伝わる話し方の習得も大事。相手に合わせて話法を変えるなどの臨機応変さも必要になってくる場合もありますし、その意味では才能の世界とも言えると思います。

 

ということで、技術や機材に踏み込んだ素人相手の情報公開は、イマドキの商売流儀に対応するために仕方なく行うものではなく、短期的にはお客様のため、長期的には自店をも教育・育成することに寄与するものです。人のために行うことが最後は自分にかえってくるということだと思います(これまた偉そうですが)。

 

<情報公開するには自店のコンセプト確立が先>

 

写真館は世襲が多い業種なので、特に老舗と呼ばれるところは自動的(?)に社長になった方が多いのではないでしょうか。中には自店の営業コンセプトなど特に考えたこともない方もいらっしゃるかもしれません。そうしたお店の業務内容は、えてして過去からの継続(学校など)がメインのところが多く見受けられます。しかし、今の時代、少子化という大問題がありますから、引き継がれた流れ受注だけでは今後立ち行かなくなるのは明白であります。また、地域密着の象徴とも言うべき学校写真の分野に、ナショナルチェーンの写真館が参入しない保証もありません。新興のフォトスタジオにしても老舗写真館にしても、営業コンセプトをしっかり考えておく、もしくは考え続けること。そしてそのコンセプトをモディファイしつづけること。その先にしか集客はないと思います。またその考察が、最終的に写真館における「時代を見越す」ことに有意につながっていくのだと思います。

 

コンセプトを考えることはタダでできます。でも考えるためには現状や写真、また写真のありかたや自分の商売スタイルについて批評眼が必要です。それを踏まえて店舗運営のコンセプトを打ち立てるのですからこの過程は大事です。

 

わたしが優れた取引先で実際に見聞きした話から、具体的な写真館のコンセプト例を挙げてみましょう。

 

例えばデジタル化の推進。デジタル機材は放っておいても必ず進歩していくものなので、それを逆手に取り、「新機材をいつも研究し、お客様に最高のデジタル撮影環境を提供する」店だという店舗コンセプトをアピールする写真館があります。もちろん、この姿勢をキープするために、社長は毎年2回、首都圏で行われるプロフォト展示会には、遠方にもかかわらず店を休みにしてでも駆けつけ、目的意識をもって会場閲覧しています。「新機材を導入してもすぐ古くなる」などとデジタルの進歩を嘆く代わりに、この店主はむしろ、いや、かなり積極的に、3年に1度は機材の刷新を図っています。当然資金的な負担は軽くありませんが、リースを利用して、その負担を上手に軽減しながら運営しています。 その姿勢は新技術の導入を怠ったなら即廃業するほどの入れ込みようです(売上不振によるフェードアウト的廃業だけが廃業じゃないんですね)。そしてそれをお客様に上手に説明しながら文字通り店の看板(コンセプト)にしています。撮影技術の確かさもあって、顧客の評判も上々のようです。こうした新しい技術へのこだわりをウリにした写真館は現状ほとんどないのですが、それはお客様へのわかりやすいアピールにもなると思うし、実践する価値はあると思います。今の時代、「一級写真技能士免状」のような権威付けだけでなく、こうした分かりやすい指標(「デジタル最新機種での撮影は当店にお任せ」的なキャッチフレーズ)も導入してみるのも手だと思うのですがいかがでしょうか?

 

または、マーケティングの観点から、競合店調査や、もっと広範な商圏調査をマメに行ったり、SNSなどでお客様に徹底的にアンケート調査を実施し、自店の弱点を教えてもらい改善するお店もあります。営業をかけなくとも来店客が途絶えることの無かった時代の名残りなのでしょうか、こうした経営コンサルタント的なことは、わたしの知る限りでは今までの写真館はほとんどやっていないはずです。また、お客様の声をもとに、こども写真館の模倣でない、新商品を開発する足がかりにするなどというのも、立派な店舗コンセプトだろうと思います。細かい事例になりますが、顧客アンケートにより駐車場の停めにくさを指摘された写真館が、うまく駐車場を拡張できたおかげで客足が伸びた例もあります。その写真館店主は運転が上手なので、自店の欠点が見えなかったのだそうです。「灯台下暗し」のような事例ですね。

 

おまえのところはどうなんだ、という声が聞こえてきそうですので、僭越ながら最近注力している新業種を申し上げますと、「自分史製作」であります。自分史を一般層向けに企画~納品まで行う仕事です。販社という立場ではありますが、当社も写真業ですから、その本質を考えた場合、今風の言葉で言えば「ライフログ(人生の履歴)ビジネス」、すなわち、お客様の人生の節目節目がそのまま商売になりうる稼業が写真業である、と考えました。また、抽象的な表現になりますが、写真(静止画)は、既存の尺度では測れないほど多くの情報量(「感動」と言い換えてもいい)を持っているものです。人が写真を見るという行為は、タイムマシーンと同じです。語りかけてくるような過去の記憶のインパクトが大きいため、一枚の写真の持つ情緒的な力は大変強力です。特に人物撮影がメインの営業写真館はこうした情緒の宝庫ですから、普段、写真に疎遠な方にこの感動を伝えたり、思い出させたりするのが、じつは撮影業の大きな役割になります。そこでそうしたものを、販社なりに本のカタチで生かそうと考えた新しい取り組みが写真自分史です。

 

写真撮影業の、(ウチが考えるところの)「ライフログ」という本質と、日本のこれからの人口動態(超高齢化社会の到来)も考慮に入れ、これからは人々の人生のフィナーレを今まで以上に演出するのが写真商売の大きなジャンル・ニーズになると考えました。今までだとこうしたものでは「遺影写真」がありましたが、お年を召した方にも世代間のトレンドがありますでしょうし、昔と比較すると元気な高齢者も多いことから、いままでのいかにもおとなしい、受動的な遺影ではアピールが足りないと考えました。これからはもう少し積極的に、生前に自分のフィナーレを行うような新しい流儀が生まれつつあるという「読み」を持っています。そこで一般の方向けに自分史の製作を提案することにしました。これが当社の新事業原案です。

 

まぁ、しかし原案だけではアイディアレベルの話に終わってしまうので、次に業種的な動向を調べてみると、文章でつづる、自費出版スタイルの自分史にはすでに競合がひしめいていました。そこで多少は原案にヒネリを加えました。そこで考えたのが「想い出の写真でつづる新しい自分史のカタチ~写真自分史」です。自社の台紙製造や印刷のノウハウと、画像処理用パソコンやソフトに詳しく、効率的な画像キャプチャーと得意の写真復元技術をミックスし、さらにいままで培った写真の見方や、キャプションを付ける文章アドバイスなど、編集スキルも自分なりに付加し(注意深く書籍を読んできた経験が役立っています)、他社とはひとあじ違う自分史を、スピーディーに、複数種類(パート1からはじまる3部作など)、少量オンデマンドで対応する、という戦略です。しかし単価はそれなりに頂き、不当に廉価販売はしないというスタンスで、主にウェブサイト経由で一般の方に提案しております。

 

このサービスが開始以来好評です。喜ばれる上に利益率も高く、良識も資金もある一般の方なので入金もすばやく、製作にも大きな手間はかかりません(ただし、先方への取材訪問や連絡、作業進捗の報告は当然マメに行います)。ホームページで固定的な情報発信する形態でしか宣伝は行っていないので、宣伝費は初回のサイト制作費(外注)のみ。月額はそのドメイン料金だけです。ここだけの話、これは夢のような稼業です。仕事とは「自分で作り出すもの」であり、営業とは「すべからく提案型であるべし」とわたしは捉えていますが、そういう方向で考えていった結果でもあります。

以上手前味噌ですが、本質を掴んで伸ばすやり方の一例と自負しておりますので紹介さしあげた次第です。

 

最後の例を挙げましょう。これも営業写真館の実例です。

今まで同業他店と同じように、何の疑いも無く自動的にやってきた撮影フロー。その過程にもモディファイできるポイントが隠されている例です。

撮影の手法それ自体も写真館商売の立派な「本質」です。そこに批評という名のメスを入れ、他店とひとあじ違う撮影スタイルを構築し、それをオリジナルなコンセプトとして昇華、顧客アピールしていたお店があり、感心したのを覚えています。

 

そのお店で着目していた要素、それは「背景」です。

たとえば背景(撮影用バック)などは何年も固定の写真館が多く、新しいバックを購入するのもそれなりの予算がかかる現状を逆手に取り、クロマキー合成をウリにしたのです。これはわたしはなぜか今まで考え付かなかったポイントです。背景は写真の表情に大きく影響します。常連のお客様であればあるほど、貴店の単一で代わり映えのしないバックに飽き飽きしているかもしれません。

また、そのお店はクロマキー合成のアイディアにさらにヒネリを加え、今までのクロマキーと異なり、背景あわせはシャッターを切る前からソフト側で行い(そういうソフトが既にある)、お客様にモニターでバックを見せながら背景ごとスタイル提案をするようにして、顧客から支持を受けています。これはヘアカット業界でたまに見かける「実際に髪を切る前に髪型をシュミレーションし、似合うスタイルを先に提案する」動向からヒントを得たのだそうです。お客様から「新鮮だ」「楽しい」「こどもが夢中になる」「よそでは見たことがない」などと大好評で、異なる背景での焼き増しも増える一方だそうです。

 

このように従来の発想に囚われることなく、他業種事例などを参考に、時には逆の発想で、また時には意外な方向から、したたかなまでに考えを広げられるのを、自営業の醍醐味と言わずして何と呼びましょう。ましてや写真業は物販などと違い、月単位の仕入予算などに必ずしもとらわれないサービス業ですから、費用対効果もそれほどシビアでないのがありがたいところです。ここはひとつ、進取の精神をもって「自分は写真をこう考える」と、「お客さまにとってお金を払うに値する写真とは?」「しかるに自店の現状は?」を出発点に、店舗コンセプトを考えていきましょう。

 

店舗改装で店をおしゃれにしたり、衣装を予算の許す限り目いっぱい仕入れたり、大量のチラシを打つのももちろんひとつの手ではありますが、ナショナルチェーンの模倣では芸がありませんし何より資金も続かない可能性があります。何度も言うようですが考えるのはタダです。また上記のような具体例の場合、実践するのもそれほどお金はかかりません(改装などに比較すれば、の話ですが)。このように考えてきますと、写真業の場合(他業種もそうだと思うのですが)、「古い」こと自体は商売上さしてデメリットではなく、「考えないこと」こそが大きな弊害、本当の意味での「旧態依然」な状態だと思うのです。

 

さて、こうした過程を経験して気づいたのは、「店舗外装の古い新しいや、キャラクター衣装の充実などといった戦略は、もちろん大事だが、写真館の場合、それらは表面的で副次的な『手段』に過ぎないのだな」ということでした。本質は店舗コンセプトという「柱」の確立と、それに沿って、今まで述べてきたように顧客に対する説明責任を全うすることこそが、実ははじめから問われているのだと思います。その本質的な部分に自覚的にならない限り、いくら店舗改装を繰り返したところで「中身は旧態依然」のお店にとどまってしまうでしょう。そう考えると、今の時代はシビアかもしれませんが、本気でやるにはもってこいの時代です。自分のビジネスの本質をきちんと把握し、本質の向上を志向する商売人が、やり方を間違えなければ、従来の因習に変にジャマされることなく、正当に儲けを出していけるのではないでしょうか。

 

しかも、フォトビジネスは他業種(特に小売)に比べ利益率も相変わらず高く、マーケットは縮小しているように見えて(確かに増えてはいないですが)、実はやり方しだいでまだまだ大丈夫。狭い地方部でナショナルチェーンと同じ手法を採用し、真正面から敵対するのはさすがにチト苦しいですが、差別化するなら小資本で十分対抗可能。また、それと反比例して既存の競合店は減少中などの状況変化もあり、わたしなどはこれからの写真撮影業は前途洋々だと思っているのです。むしろ地方立地と小資本が、いわば武器になると考えているくらいです。ですから、おかげさまで当社もプロ機材卸を辞めず、継続させてもらうことが出来ています。

 

ということでこれからもいろんな提案をお店に出していきますので、みなさま、よろしくお願いいたします。